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2013-04-22(Mon)

マルキ・ド・サド『ソドムの百二十日』 ⑨

「序文」の最後にサドがわれわれ読者に語りかけます。


「読者の皆さん、この世が始まって以来の最も淫らな物語の始まりに備えて、心と頭の整理をしておいて頂きたいのです。
このような物語は古代にも近代にも凡そ類を見ないものでしょう。」


ずいぶんな自信でございます。
しかしこれはまっとうな自己評価と言えましょう。
ただ私はよくわからなかったのでございます。
フランス革命前夜、
何年も刑務所に入れられている人間が、
誰が読むでもない出版の当てがあるでもない小説をこれほどの自信を持って、
まだ見ぬ読者に向かって語れるのか、と。
実際、12mの長さに貼り合わされた巻紙に蟻のような小さい文字で書き綴られたこの『ソドムの百二十日』が日の目を見るのは、
書かれてから100年後なのでございます。


「読者がその実体もよくご存知なしに絶えず口になさっている、
あの造化の神と呼ばれる馬鹿げた存在が私達に強く勧めている尊敬すべき美徳は、
はっきりとこの物語から締め出されているのです。」

「読者にとって何の差異もないように見える情欲でも、よく研究すれば、例え細微でも必ず差異があり、
それぞれ独特な洗練された趣きを持っているものです。」

「読者がこれからこの物語の中でご覧になる多くの逸脱行為の中にはたぶん気に入らないものもたくさんあることでしょうが、
しかし又思わず精水を洩らさずにはいられないほど興奮させる行為もたくさんあるのです。
作者はそれでなければなりません。」


どうやら彼は、まだ見ぬ読者の「精水を洩らさずにはいられないほど興奮させる」ことを使命としているようで、
「作者はそれでなければなりません」と断言するこのサドの言葉を読んで私は非常な親近感を持ったのでございます。
これは、より「抜ける」エロい春画を目指している現在の私の姿ではありませんか。
エロ絵師はそれでなければなりません。

サドの状況なども想像すると、彼がこの物語を書かずにいられなかった心理も興味深うございます。
読み進めば果してその一端でもわかるでしょうか。

いよいよ「序文」が10月31日で終り、11月1日がやってきます。
「第一部」、饗宴の始まりでございます。

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